アーティストステートメントの書き方|作品の魂を言葉にする方法

自分の作品に込めた想いや背景を、言葉で伝えるのって、時々もどかしく感じること、ありませんか。

こんにちは、アザミです。

私も元々はアートと無縁の世界にいたので、初めてアーティストステートメントという言葉を聞いた時、なんだかとても専門的で、自分には縁遠いもののように感じてしまいました。

しかし、アートの世界を探求するうちに、これが自分の作品と鑑賞してくださる方とを繋ぐ、とても大切な架け橋なのだと気づいたんです。

アーティストステートメントの書き方に唯一の正解はありませんが、その目的や基本的な構成を知ることで、あなた自身の言葉を紡ぎ出すヒントが見つかるかもしれません。

この記事では、ポートフォリオをより魅力的にするためのコンセプトの伝え方から、審査員の心に響く具体的な例文、さらには海外へ向けて発信する際の英語のポイントまで、私がリサーチしてきた情報を共有したいと思います。

作品制作の意図を明確にし、鑑賞者との対話を深めるこの文章は、作家としてのあなたを表現する強力なツールになります。

文字数や構成に悩み、筆が止まってしまっているあなたも、この記事を読み終える頃には、きっと次の一歩が踏み出せるはずです。

一緒に、あなたの作品の魂を言葉にする旅を始めましょう。

この記事で分かる事、ポイント
  • アーティストステートメントの基本的な役割と目的
  • 作品のコンセプトを効果的に伝える方法
  • ポートフォリオにおけるステートメントの重要性
  • 読者を惹きつける基本的な構成と要素
  • 提出先や目的に合わせた適切な文字数の考え方
  • 海外の審査員や鑑賞者に向けた英語での表現のコツ
  • 心を掴むステートメントを書くための具体的なステップ

アーティストステートメントの基本と目的の理解

この章のポイント
  • あなたの作品コンセプトを伝えるための文章
  • ポートフォリオで重要となる理由
  • 基本的な構成と含めるべき要素
  • 目的によって変わる適切な文字数とは
  • 海外の審査員にも伝わる英語での表現

あなたの作品コンセプトを伝えるための文章

アーティストステートメントとは、一体何でしょうか。

一言でいうと、「作家が自身の作品について、そのコンセプトや制作意図、背景にある想いを言葉で説明する文章」のことです。

それはまるで、言葉の通じない国で、自分の気持ちを伝えてくれる通訳者のような存在かもしれませんね。

作品そのものが持つ力はもちろん絶大ですが、それだけでは伝えきれない作家の内面や、制作に至るまでの物語を補い、鑑賞者との間に深い繋がりを生み出す役割を担っています。

私がアートを探求し始めた頃、一枚の抽象画の前に立ち尽くしたことがあります。

色と形が渦巻くその絵から、何か強いエネルギーを感じるものの、それが何なのか、どう受け取ればいいのか分からずに戸惑っていました。

その時、ふと横にあったキャプションに目をやると、作家の短い言葉が記されていました。

そこには、幼少期の記憶や、ある特定の感情を、特定の色と形に託したという制作の意図が書かれていたのです。

その文章を読んだ瞬間、ただの色の集合にしか見えなかった絵が、まるで立体的な物語のように立ち上がってくるのを感じました。

作家の視点を借りることで、作品との対話が始まったような、そんな不思議な感覚でした。

このように、アーティストステートメントは、鑑賞者が作品の世界へ入るための「扉」や「鍵」のようなものだと言えるでしょう。

作品のコンセプト、つまり「あなたのアートが何に基づき、何を表現しようとしているのか」という核となる考えを、言葉にして差し出すことで、鑑賞者はより豊かな鑑賞体験を得ることができます。

それは、作品の「取扱説明書」というよりは、「作品という旅への招待状」に近いのかもしれません。

この招待状があることで、鑑賞者は安心してあなたの世界を探検できるのではないでしょうか。

ですから、難しい言葉で飾る必要は全くありません。

あなたの内側から湧き出る素直な言葉で、なぜこの作品が生まれたのか、何を大切にしているのかを語りかけることが、何よりも大切だと私は感じます。

あなたの作品コンセプトを伝えることは、あなた自身のアートをより深く理解するプロセスでもあるのです。

ポートフォリオで重要となる理由

ポートフォリオ、つまり自身の作品集をまとめる際、アーティストステートメントはなぜそれほどまでに重要なのでしょうか。

それは、ポートフォリオが単なる作品のカタログではなく、「あなたという作家をプレゼンテーションする総合的な資料」だからです。

作品の画像だけが並んでいるポートフォリオを想像してみてください。

もちろん、素晴らしい作品はそれだけで力を持っています。

しかし、そこには「なぜ、この作家がこれらの作品を生み出したのか」という物語が欠けているように感じませんか。

ギャラリーのキュレーターやコンペの審査員、あるいは作品の購入を検討しているコレクターといった人々は、日々膨大な数のポートフォリオに目を通します。

彼らが見たいのは、美しい作品だけではありません。

その向こう側にいる作家の個性、思考の深さ、そして将来性です。

アーティストステートメントは、そうした目に見えない価値を伝えるための、ほぼ唯一の手段といっても過言ではないでしょう。

作品が「What(何を)」作っているかを示すものだとすれば、ステートメントは「Why(なぜ)」と「How(どのように)」を語る部分です。

  • **Why(なぜ)**: なぜあなたはこのテーマに取り組むのですか?その動機はどこから来るのでしょうか。
  • **How(どのように)**: どのようなプロセスや技法で制作していますか?その選択にはどんな意味がありますか。

これらの問いに対するあなた自身の言葉が、作品に文脈と深みを与えます。

例えば、同じ風景画が2枚あったとします。

片方はただ作品画像があるだけ。

もう片方には、「私は、都市開発によって失われゆく故郷の原風景を、記憶と記録の中に留めるために描いている。

あえて輪郭を曖昧にする技法は、薄れゆく記憶の儚さを表現している」というステートメントが添えられていたとしたら、どうでしょう。

後者の作品の方が、より強く印象に残り、作家の姿勢に共感や興味を抱くのではないでしょうか。

このように、アーティストステートメントは、あなたの作品と思想が一貫していることを示し、作家としての信頼性を高める効果があります。

ポートフォリオの中で、作品群全体を貫く一本の芯となり、あなたのアーティストとしてのブランドを確立する上で、非常に重要な役割を果たしてくれるのです。

作品と言葉が互いに響き合うことで、あなたのポートフォリオは、単なる作品集から、説得力のある自己紹介へと昇華されると、私は考えています。

基本的な構成と含めるべき要素

さて、実際にアーティストステートメントを書こうと思った時、多くの人が「何から書き始めればいいの?」という壁にぶつかるのではないでしょうか。

そんな時は、基本的な構成の型を知っておくと、思考を整理しやすくなります。

もちろん、これが絶対のルールというわけではありませんが、迷った時の道しるべにはなるはずです。

私がこれまで多くのステートメントを読んできた中で感じた、分かりやすい構成は、大きく分けて3つのパートから成り立っています。

それは、「導入(つかみ)」「本論(展開)」「結論(まとめ)」という、文章の基本構造です。

導入:私は、何者か?

最初の部分では、あなたがどんなアーティストであるかを簡潔に述べます。

「私は〇〇をテーマに、△△という手法で作品を制作しているアーティストです」といった、自己紹介の部分ですね。

ここで大切なのは、最も伝えたい自分の核となる活動内容を、明確に提示することです。

鑑賞者はここで、あなたの活動の全体像を掴みます。

本論:なぜ、どのように制作するのか?

次に、導入で述べたことを具体的に掘り下げていきます。

ここがステートメントの心臓部と言えるかもしれません。

含めるべき要素としては、以下のようなものが考えられます。

  1. 制作の動機や背景: なぜ、あなたはそのテーマに惹かれるのでしょうか。個人的な経験や社会的な問題意識など、あなたの制作の源泉となっているものを語ります。
  2. コンセプトやテーマ: あなたの作品群全体を貫く、中心的なアイデアや問いは何ですか。これを明確にすることで、作品に一貫性が生まれます。
  3. プロセスや技法: どんな素材を使い、どのようなプロセスで制作していますか。その技法を選ぶこと自体に、何か特別な意味やこだわりはありますか。例えば、「私は、偶然性を作品に取り入れたいため、絵具を垂らし込むドリッピングという技法を多用します」のように、技法と意図を結びつけて説明すると説得力が増します。
  4. 影響を受けたもの: 特定のアーティストや思想、文学、音楽など、あなたの制作にインスピレーションを与えたものがあれば、それに触れるのも良いでしょう。

これらの要素をすべて盛り込む必要はありません。

あなたのアートを説明する上で、最も重要だと感じるものを選び、あなた自身の物語として紡いでいくことが大切です。

結論:これから、どこへ向かうのか?

最後の部分では、文章全体を締めくくります。

これまでの活動を踏まえて、鑑賞者に何を感じてほしいのかを伝えたり、今後の活動の方向性や展望を示したりするのも良いでしょう。

私の作品を通して、日常に潜む小さな美しさに気づくきっかけを提供したい」といった、あなたの願いで締めくくることで、読者の心に余韻を残すことができます。

これらの構成と要素は、あくまで一つの地図のようなものです。

大切なのは、あなた自身の言葉で、あなたのアートの物語を誠実に語ること。

この地図を片手に、ぜひあなただけのアート探求の旅を言葉にしてみてくださいね。

目的によって変わる適切な文字数とは

アーティストステートメントを書く上で、意外と頭を悩ませるのが「文字数」ではないでしょうか。

「情熱を伝えたいから、つい長くなってしまう…」あるいは「短くまとめようとすると、何も伝えられない気がする…」そんな風に感じるかもしれませんね。

実は、アーティストステートメントに「絶対にこの文字数が正しい」という決まりはありません。

最も大切なのは、そのステートメントが「いつ、どこで、誰に」読まれるのか、その目的を意識することです。

状況に応じて適切な長さに調整することが、効果的なコミュニケーションに繋がります。

ここでは、いくつかの一般的なケースと、それに合わせた文字数の目安について見ていきましょう。

目的・用途 文字数の目安 ポイント
ウェブサイトやSNSのプロフィール 100〜250字程度 (ショート) 訪問者が短時間で作家の核心を理解できるよう、最も重要なコンセプトやテーマに絞り込み、簡潔にまとめる必要があります。いわば「エレベーターピッチ」のようなものですね。
コンペティションや助成金の応募 400〜800字程度 (ミディアム) 審査員に制作意図や背景を深く理解してもらう必要があります。多くの場合、応募要項で文字数制限が設けられているため、その規定に従うことが絶対です。与えられた文字数の中で、自身の活動の独自性や意義を論理的に説明する能力が問われます。
個展やグループ展のステートメント 400〜1,000字程度 (ミディアム〜ロング) 特定の展示に合わせて書かれることが多く、その展示で発表する作品群に焦点を当てた内容になります。作家全体の活動理念に加え、今回の展示で特に探求したテーマや新しい試みについて詳しく述べることができます。
ポートフォリオブック 500字程度 (ミディアム) 作品集全体を貫く思想を示す、中心的なステートメントです。長すぎず短すぎず、作家の全体像を過不足なく伝えるバランスが求められます。

このように、目的によって求められる情報の深さや密度が異なります。

私のおすすめは、まず800字程度の「マスター版」となるステートメントを作成しておくことです。

そこには、あなたの動機、コンセプト、プロセスなど、伝えたい要素をすべて盛り込んでおきます。

そして、必要に応じてそのマスター版から要素を抜き出したり、要約したりして、様々な文字数のバージョンを作成するのです。

そうすれば、急な依頼にも慌てず対応できますし、常に一貫したメッセージを発信することができるようになります。

文字数は単なる制約ではなく、あなたのメッセージを最も効果的に届けるための「器」のようなもの。

その器に合わせて、言葉を柔軟に磨き上げていく作業も、また一つのクリエイティブなプロセスと言えるかもしれませんね。

海外の審査員にも伝わる英語での表現

アートの世界は、国境を越えて広がっています。

海外のレジデンスプログラムやコンペ、ギャラリーに挑戦したいと考えている方にとって、アーティストステートメントを英語で用意することは、もはや必須と言えるでしょう。

ただ、日本語で書いたステートメントを単純に翻訳すれば良いかというと、そこには少し注意が必要です。

文化や言語の背景が違う相手に、あなたの作品の深いコンセプトやニュアンスを正確に伝えるためには、いくつかのコツがあると私は感じています。

まず大前提として、シンプルで明確な言葉を選ぶことが非常に重要です。

日本語特有の曖昧な表現や、詩的で情緒的な言い回しは、文化的な文脈を共有していない相手には意図通りに伝わらない可能性があります。

例えば、「もの悲しさ」や「わびさび」といった感覚を直接的な単語で表現するのは難しいですよね。

そういった場合は、なぜそのような感覚に至ったのか、具体的な経験やプロセスを説明することで、間接的にその感情を伝える方が効果的です。

次に、能動態(Active Voice)を意識的に使うことをお勧めします。

日本語では「〜と思われる」や「〜されている」といった受動態(Passive Voice)がよく使われますが、英語では主体を明確にする能動態の方が、力強く、書き手の意思が明確に伝わります。

例えば、「My work explores...(私の作品は〜を探求します)」や「I create...(私は〜を創造します)」といった表現は、あなたの主体性を強調してくれます。

また、アートの世界でよく使われる専門用語や表現に慣れておくことも助けになります。

  1. Explore (探求する): テーマやコンセプトを掘り下げる際に使います。
  2. Investigate (調査する): より深く、研究的にアプローチするニュアンスです。
  3. Juxtapose (並置する): 対照的な要素を並べて配置し、新たな意味を生み出す場合に使います。
  4. My practice (私の実践): 単に「work(作品)」というだけでなく、制作活動全体を指す言葉としてよく使われます。

これらの単語を適切に使うことで、あなたのステートメントはよりプロフェッショナルな印象を与えるでしょう。

もちろん、Google翻訳やDeepLといった翻訳ツールは非常に優秀で、下書きを作る上では強力な味方になります。

しかし、最終的には英語を母語とするアーティストやライターに校正を依頼することを強くお勧めします。

彼らは、文法的な間違いだけでなく、不自然な言い回しや、より効果的な単語選びについてもアドバイスをくれるはずです。

言語の壁は、時に大きな挑戦となりますが、それは同時に、自分のアートを異なる視点から見つめ直す絶好の機会でもあります。

あなたの作品の魂が、海を越えて多くの人の心に届くことを、私も心から願っています。

心を掴むアーティストステートメントの書き方とは

この章のポイント
  • まずは制作の動機となるテーマを深掘り
  • 参考にしたい有名作家の例文
  • 具体的な作品を交えて説明するコツ
  • 読み手を惹きつけるためのテクニック
  • これからアーティストステートメントを書くあなたへ

まずは制作の動機となるテーマを深掘り

心を掴むアーティストステートメントを書くための第一歩、それは、テクニックや言葉選びの前に、あなた自身の内面へと深く潜っていく作業から始まります。

なぜなら、人の心を動かす文章は、書き手自身の深い納得と情熱からしか生まれないからです。

その核となるのが、「制作の動機となるテーマ」の深掘りです。

「なぜ、私は創るのだろう?」この根源的な問いに、あなた自身の言葉で向き合う時間を持ってみませんか。

これは、単に「花が好きだから花の絵を描く」という表面的なレベルの話ではありません。

「なぜ、数あるモチーフの中で、自分は特に花に惹かれるのか?」

「花のどんな側面に心を動かされるのか?

その儚さか、生命力か、それとも人工的な環境との対比か?」

「花を描くという行為を通じて、私は何を表現し、何を探求したいのか?」

このように、「なぜ?」を何度も繰り返していくと、だんだんと自分でも気づいていなかった深層心理や、大切にしている価値観が見えてくることがあります。

この自己探求のプロセスは、時に難しく、答えがすぐに見つからないかもしれません。

そんな時は、以下のような質問を自分に投げかけてみるのがおすすめです。

  • 幼少期からずっと好きだったものは何ですか?: 今のあなたの興味の原点が隠れているかもしれません。
  • 社会に対して、怒りや疑問を感じることは何ですか?: 強い感情は、制作の強力なエネルギー源になります。
  • あなたの作品がなかったとしたら、世界から何が失われますか?: あなたの作品が持つ独自の価値や役割を考えるきっかけになります。
  • 制作している時に、最も幸せを感じる瞬間はどんな時ですか?: その感覚こそ、あなたの制作の本質に繋がっている可能性があります。

これらの問いに答えるために、ノートに思いつくまま書き出してみたり、信頼できる友人と対話してみたりするのも良い方法でしょう。

大切なのは、かっこいい言葉や、誰かに評価されそうなテーマを探すことではありません

たとえそれが個人的で、些細なことに思えても、あなたにとって切実で、誠実な動機であることの方が何倍も重要です。

例えば、「都会の片隅で見つけた、アスファルトの隙間から生える雑草の力強さに勇気づけられた経験から、私は逆境の中にある生命の輝きを描いている」といった個人的な動機は、普遍的な共感を呼び起こす力を持っています。

この深掘りの作業は、あなたのアーティストステートメントに、揺るぎない背骨を与えてくれます。

自分自身のテーマに確信が持てれば、言葉は自然と熱を帯び、読み手の心にまっすぐ届くようになるはずです。

焦らず、じっくりと、あなただけのアートの源泉を探求してみてくださいね。

参考にしたい有名作家の例文

自分自身のテーマを深掘りしていく中で、他のアーティストたちがどのように自身の作品を言葉にしているのかを知ることは、大きなヒントになります。

特に、歴史に名を残す有名作家の言葉は、その思考の深さや表現のユニークさに触れることができ、私たちの視野を広げてくれるように感じます。

ただし、ここで注意したいのは、彼らの言葉をそのまま真似るのではなく、その「姿勢」や「視点」を学ぶというスタンスです。

彼らがどのように世界を捉え、それをいかに独自の言葉で表現しようと試みたのか、そのエッセンスを感じ取ることが大切ですね。

ここでは、著作権に配慮し、文章を直接引用するのではなく、私が感銘を受けた作家たちのステートメントの「考え方」をいくつかご紹介したいと思います。

草間彌生:個人的な体験を普遍的な表現へ

草間彌生の作品は、水玉や網模様の反復が特徴的ですが、その根源には幼少期から悩まされてきた幻覚や強迫観念があります。

彼女のステートメントは、その非常に個人的で、時に苦痛を伴う体験を隠すことなく語り、それをアートによって乗り越えようとする「自己消滅」への願望へと繋げていきます。

ここから学べるのは、個人的な体験が、いかにして他者の共感を呼ぶ普遍的なアートになり得るかということです。

自分の弱さや葛藤も、創造の源泉になり得るという勇気をもらえます。

バンクシー:社会への鋭い視点

神出鬼没のストリートアーティスト、バンクシーの作品は、常に社会や政治に対する痛烈な風刺とユーモアに満ちています。

彼のステートメント(作品に添えられるキャプションやインタビューでの発言)は、非常に直接的で、分かりやすい言葉で作品の意図を明確にします。

彼はアートを、単なる自己表現の道具ではなく、社会にメッセージを投げかけるための「武器」として捉えているのです。

ここから学べるのは、アーティストが社会とどう関わり、どんな役割を担うことができるのかという視点です。

自分のアートを通して、社会にどんな問いを投げかけたいかを考えるきっかけになります。

ゲルハルト・リヒター:不確かさの探求

フォト・ペインティングや抽象画など、多様なスタイルで知られるゲルハルト・リヒターは、「見ること」や「信じること」の不確かさについて探求し続けてきました。

彼の言葉はしばしば、「私は何も信じない」「イデオロギーを拒否する」といった、断定的ながらも、あらゆる確実性を疑う姿勢に貫かれています。

アートを通して答えを提示するのではなく、むしろ鑑賞者に「問い」そのものを突きつけるのです。

ここから学べるのは、必ずしも明確な答えやメッセージを提示するだけがアートではないということです。

世界や物事の複雑さ、曖昧さをそのまま提示することも、アートの重要な役割であると気づかされます。

これらの作家たちに共通しているのは、自分が見つめているもの、探求しているテーマに対して、非常に誠実であるということです。

彼らの言葉をヒントに、あなた自身のユニークな視点と、それを表現するための言葉を探してみてはいかがでしょうか。

具体的な作品を交えて説明するコツ

アーティストステートメントを書いていると、どうしても文章が抽象的になりがちです。

「私は生命の循環をテーマに…」や「存在の不確かさを表現…」といった言葉は、もちろん重要ですが、それだけが続くと、読者は少し煙に巻かれたような気分になってしまうかもしれません。

そこで非常に効果的なのが、具体的な作品名を挙げ、その作品と抽象的なコンセプトを結びつけて説明するという方法です。

これによって、あなたの語るコンセプトが、単なる机上の空論ではなく、実際に作品として結実していることを示し、文章にぐっと説得力と具体性が増します。

まるで、理論物理学者が数式だけでなく、実際の観測データを提示するのに似ているかもしれませんね。

では、どのように作品を交えて説明すれば良いのでしょうか。

いくつかのコツを見ていきましょう。

1. 「例えば」を使って繋げる

最もシンプルで分かりやすい方法です。

あなたが提示したコンセプトを、実際の作品がどのように体現しているのかを示す際に使います。

「私は、記憶の断片性と再構築というテーマを探求しています。

例えば、私の《昨日の食卓》というシリーズでは、日常的な風景を一度解体し、コラージュの手法で再構成することで、完璧ではない記憶の曖昧さを視覚化しようと試みています。」

このように書くと、「記憶の断片性」という抽象的なテーマが、《昨日の食卓》という具体的な作品を通して、読者の頭の中でイメージしやすくなると思いませんか。

2. 作品の制作プロセスに触れる

作品が生まれるまでの物語を語ることも、読者の興味を引きます。

なぜその素材を選んだのか、制作中にどんな発見があったのか、そういったエピソードが、あなたのコンセプトを裏付ける証拠となります。

「私の制作における一貫したテーマは、都市における自然のレジリエンス(回復力)です。

特に、連作《アスファルトの詩》では、実際に都市で採取したひび割れたアスファルトの破片を顔料として使用しています。

この硬質で人工的な素材から、植物の芽吹きのような有機的なフォルムを描き出すというプロセス自体が、私のテーマの核心をなしているのです。」

3. シリーズ名を効果的に使う

複数の作品に共通するテーマがある場合、それらをシリーズとして括り、そのシリーズ名にコンセプトを込めるのも良い方法です。

ステートメントの中でそのシリーズ名に言及することで、あなたの活動が計画的で、一貫した思想に基づいていることを示すことができます。

「近年、私が集中的に取り組んでいるのが《Interference(干渉)》と題したシリーズです。

これは、デジタルノイズのイメージと、伝統的な油彩技法を意図的に衝突させることで、現代におけるリアリティの多層性を探るものです。」

これらのコツを使うことで、あなたのアーティストステートメントは、コンセプトという「縦糸」と、個々の作品という「横糸」が織りなす、豊かで説得力のあるタペストリーのようになるでしょう。

ぜひ、あなたの代表作や、思い入れのある作品を道しるべに、コンセプトの森を案内してあげてください。

読み手を惹きつけるためのテクニック

これまで、ステートメントの内容を深める方法について探求してきましたが、最後にもう一つ、その内容を「どう伝えるか」という、表現のテクニックについても少し考えてみましょう。

素晴らしいコンセプトも、退屈な文章で語られてしまっては、その魅力は半減してしまいます。

読み手である鑑賞者や審査員の心を掴み、あなたの世界に引き込むためには、いくつかの文章上の工夫が助けになるかもしれません。

1. ストーリーテリングを意識する

人は、単なる情報の羅列よりも、物語に心を動かされます。

あなたのアーティストステートメントも、一つのショートストーリーとして構成してみてはいかがでしょうか。

「私は〇〇を制作しています」と始めるのではなく、「すべては、祖母の家の屋根裏で見つけた一枚の古い写真から始まりました」といったように、読者を物語の冒頭にいざなうような書き出しは、非常に効果的です。

制作に至ったきっかけ、探求の過程での葛藤や発見、そして現在地までを、時系列に沿って語ることで、読者はあなたと一緒に旅をしているような感覚で、あなたの活動を追体験することができます。

2. 力強い動詞を選ぶ

文章の印象は、動詞によって大きく変わります。

「〜についてです」「〜があります」といった静的な表現ばかりではなく、生き生きとした力強い動詞を選ぶことを意識してみてください。

例えば、「私の作品は、社会問題をテーマにしています」よりも、「私の作品は、社会の矛盾に鋭く切り込みます」とした方が、作家の積極的な姿勢が伝わってきませんか。

「探求する(explore)」「挑戦する(challenge)」「問いかける(question)」「暴露する(reveal)」「構築する(construct)」など、あなたの姿勢に合った動詞を探してみましょう。

3. 感覚に訴える言葉を使う

アートは視覚だけでなく、五感に訴えかけるものです。

文章においても、読者がその場の空気や質感、音までも感じられるような、感覚的な言葉を取り入れてみましょう。

「ざらざらとした絵肌」「湿り気を帯びた空気」「光が降り注ぐような色彩」といった表現は、読者の頭の中に鮮やかなイメージを喚起します。

あなたの制作現場の様子や、作品が放つ雰囲気を、五感を研ぎ澄まして言葉にしてみてください。

4. 誠実で、正直な言葉を選ぶ

そして、どんなテクニックよりも大切なのが、誠実さです。

難しい専門用語や、流行りのアートの言説を借りてきて自分を大きく見せようとする文章は、不思議と読み手に見透かされてしまうものです。

背伸びをする必要はありません。

たとえ拙くても、あなた自身の心から出てきた言葉、あなたが本当に信じている言葉こそが、最も人の心を打ちます。

「まだ答えは見つかっていません。だからこそ、私は描き続けるのです」といった正直な言葉は、完璧な理論よりもずっと共感を呼ぶことがあります。

これらのテクニックは、料理におけるスパイスのようなものです。

まずは、あなた自身の体験と探求という新鮮な素材があってこそ活きてきます。

あなたの心の声に耳を澄ませ、それを最も魅力的に伝えるための言葉を、楽しみながら探してみてくださいね。

これからアーティストステートメントを書くあなたへ

ここまで、アーティストステートメントの目的から具体的な書き方のコツまで、私と一緒に長い旅をしてくださって、本当にありがとうございます。

きっと今、あなたの頭の中には、たくさんの情報やアイデアが渦巻いていることでしょう。

もしかしたら、「やらなければいけないことがたくさんあって、かえって難しく感じてしまった…」という方もいるかもしれませんね。

もしそう感じていたら、一度、深呼吸をしてみてください。

そして、これだけは忘れないでほしいのです。

アーティストステートメントを書くという行為は、誰かに評価されるための「試験」ではなく、あなた自身が、あなたのアートと深く対話するための「時間」なのだということを。

作品を創るという行為は、時に直感的で、言葉にならない衝動に突き動かされるものです。

夢中で手を動かしている間、私たちはその意味を考えることを忘れているかもしれません。

ステートメントを書くことは、その無我夢中の時間の中で生み出されたものたちを、改めて愛情を込めて見つめ直し、「あなたは、どこから来たの?」「何を伝えたかったの?」と語りかける作業なのだと、私は思います。

だから、最初から完璧な文章を目指さなくて大丈夫です。

まずは、キーワードを断片的に書き出すだけでもいい。

誰にも見せない日記のように、ただただ思いを綴るだけでもいいのです。

大切なのは、言葉にすることで、自分の中の曖昧だった輪郭が、少しずつはっきりしてくる、そのプロセスそのものを楽しむことではないでしょうか。

書いてみて、しっくりこなければ、また書き直せばいいのです。

アーティストステートメントは、一度書いたら終わりではありません。

あなたの制作活動が変化し、進化していくのと同様に、ステートメントもまた、呼吸をし、成長していく「生き物」のようなものだと私は感じています。

今日のステートメントは、あくまで「今、この瞬間のあなた」を記録したスナップショットに過ぎません。

恐れずに、今のあなたの、素直な言葉を紡いでみてください。

その言葉は、あなたの作品にとって最高の理解者となり、鑑賞者との間に温かい架け橋を架けてくれるはずです。

あなたのアート探求の旅が、素晴らしい言葉となって結晶することを、同じ探求を続ける仲間として、心から応援しています。

この記事のまとめ
  • アーティストステートメントは作品の魂を伝える文章
  • 鑑賞者と作品を繋ぐ大切な架け橋の役割を持つ
  • ポートフォリオでは作家の思想や将来性を示す上で重要
  • ステートメントはWhy(なぜ)とHow(どのように)を語る
  • 基本的な構成は導入・本論・結論の3パート
  • 含めるべき要素は動機・コンセプト・プロセスなど
  • 文字数は目的(ウェブサイト、公募など)に応じて調整する
  • 800字程度のマスター版を用意しておくと便利
  • 英語で書く際はシンプルで明確な言葉と能動態を意識
  • 書き始める前に制作の動機となるテーマを深掘りする
  • 有名作家の例文は姿勢や視点を学ぶために参考にする
  • 抽象的なコンセプトは具体的な作品名を交えて説明すると説得力が増す
  • 読み手を惹きつけるにはストーリーテリングや力強い動詞が有効
  • 完璧を目指さずまずは自分と対話する時間として楽しむ
  • ステートメントは活動と共に成長する生き物と捉える

 

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