
最近、ビジネスの世界で「アート思考」や「デザイン思考」という言葉をよく耳にすると思いませんか?
こんにちは、アザミです。
書店に行けば関連する本が並び、ウェブをのぞけば多くの事例が紹介されていますよね。
私自身、アートの世界に魅了された一人として、これらの言葉にはとても興味を惹かれます。
ただ、同時にこんな疑問も湧いてくるのではないでしょうか。
「アート思考とデザイン思考って、具体的に何が違うんだろう?」と。
両方とも創造性が大切なように聞こえますし、ビジネスをより良くするためのヒントになりそうな気配は濃厚です。
しかし、その本質的な違いや、それぞれの目的、思考のプロセスをきちんと理解している人は、案外少ないのかもしれません。
また、ロジカル思考との関係性や、それぞれの思考法が持つデメリットについてまで踏み込んで考える機会は、なかなかないですよね。
この記事では、そんなアート思考とデザイン思考の気になる違いを解き明かしながら、二つの思考法をどう組み合わせ、どのように鍛えれば日々の仕事や新しいアイデア創出に活かせるのか、そのヒントを一緒に探していきたいと思います。
この記事を読み終える頃には、二つの思考法の輪郭がはっきりと見え、あなたの日常やビジネスに新しい視点をもたらす強力なツールとして、使いこなすための第一歩が踏み出せるはずです。
- アート思考とデザイン思考の根本的な目的の違い
- それぞれの思考プロセスとアプローチの差
- ビジネスシーンでの具体的な活用事例
- ロジカル思考を含めた3つの思考法の関係性
- それぞれの思考法が持つ意外なデメリット
- 日常生活の中でできる思考法の鍛え方
- 二つを組み合わせることで生まれる相乗効果
アート思考とデザイン思考の明確な違いとは?
- 思考の出発点となる「目的」の違い
- 課題解決と価値創造の「プロセス」
- ビジネスにおける具体的な活用「事例」
- ロジカル思考との関係性とそれぞれの役割
- 意外と知られていない両者の「デメリット」
思考の出発点となる「目的」の違い
アート思考とデザイン思考、この二つの最も大きな違いは、思考がスタートする「出発点」、つまりその目的にあると私は感じています。
どちらも何かを生み出すための考え方ですが、向かっている方向が根本的に異なっているんですよね。
まず、デザイン思考の目的は非常に明確です。
それは「特定の問題を解決すること」にあります。
常に「誰か」のために存在する思考法、と言えるかもしれません。
例えば、「このアプリは使いにくい」「通勤時間がもっと快適になればいいのに」といった、実在するユーザーの悩みや課題がすべての始まりです。
そこから共感を通じて深くニーズを掘り下げ、より良い解決策を提示することがゴールとなります。
一方で、アート思考の出発点はまったく違います。
それは、作り手自身の内側から湧き上がる「問い」や「探求心」、「純粋な衝動」が目的です。
「これって本当に当たり前なのだろうか?」「世界がもしこうだったら面白いのに」といった、個人的な好奇心や問題意識がすべての原動力なんですね。
そこには、最初から「誰かのために」という視点はありません。
あくまで「自分がどう感じるか」「自分は何を表現したいか」が中心になります。
この違いを分かりやすく表にまとめてみました。
項目 | デザイン思考 | アート思考 |
---|---|---|
思考の目的 | 課題解決・人々の生活をより良くする | 自己表現・問題提起・新しい価値観の提示 |
思考の起点 | 他人(ユーザー)の悩みやニーズ | 自分自身の好奇心や違和感 |
重視するもの | 共感性、客観性、実現可能性 | 独創性、主観性、探求心 |
問いの種類 | 「どうすれば問題を解決できるか?(How)」 | 「そもそも、なぜこれが問題なのか?(Why)」 |
このように並べてみると、デザイン思考が「外」に向かって人々の課題を探すのに対し、アート思考は「内」に向かって自分の心の声に耳を澄ませる、という対照的な構図が見えてくるのではないでしょうか。
もちろん、どちらが優れているという話ではありません。
既存の枠組みの中で最適な答えを出すのが得意なデザイン思考と、既存の枠組みそのものを疑い、新しい意味を創造するのが得意なアート思考。
この目的の違いを理解することが、両者を深く知るための最初の、そして最も重要な一歩になると言えるでしょう。
課題解決と価値創造の「プロセス」
目的が違えば、当然そこへ至るまでの道のり、つまり思考の「プロセス」も大きく異なってきます。
デザイン思考のプロセスは、ある程度体系化されており、非常に実践的なのが特徴ですね。
一方でアート思考のプロセスは、もっと自由で、偶発的な発見を大切にするように感じます。
デザイン思考の体系的な5ステップ
デザイン思考のプロセスとして最も有名なのが、スタンフォード大学d.schoolが提唱する5つのステップです。
これは、課題解決のための思考の流れを分かりやすく示したもので、多くの企業で導入されています。
- 共感 (Empathize): ユーザーを深く観察し、インタビューなどを通じて彼らの置かれている状況や感情に寄り添い、本質的なニーズを理解しようと試みます。
- 問題定義 (Define): 共感によって得られた情報をもとに、解決すべき課題を明確に定義します。「ユーザーは〇〇に困っている、なぜなら〜だからだ」というように、具体的な言葉で問題を捉え直す段階ですね。
- 創造 (Ideate): 定義された問題に対して、ブレインストーミングなどを用いて、常識にとらわれず自由に、できるだけ多くの解決策のアイデアを出していきます。ここでは質より量が重視されることが多いです。
- 試作 (Prototype): アイデアを具体的な形にするステップです。完璧なものである必要はなく、手書きのスケッチや簡単な模型など、アイデアを検証できる最小限の試作品を素早く作ることが重要になります。
- テスト (Test): 試作品を実際のユーザーに使ってもらい、フィードバックを得ます。その結果をもとに、問題定義に戻ったり、アイデアを修正したりと、この5つのステップを行き来しながら、解決策の精度を高めていくのです。
このように、デザイン思考はユーザーとの対話を繰り返しながら、段階的に答えへと近づいていく、体系的で再現性の高いプロセスと言えるでしょう。
アート思考の流動的で探求的なプロセス
対して、アート思考にはデザイン思考のような決まったステップやフレームワークは存在しません。
それは、アート思考が「答えのない問い」を探求する旅のようなものだからです。
あえてそのプロセスを言語化するなら、以下のような流れになるかもしれません。
- 興味の起点: まずは、世の中の常識や当たり前とされていることに対して、「本当にそうだろうか?」という個人的な疑問や、心がざわつくような違和感からすべてが始まります。
- 探求と深化: その疑問を誰かに聞くのではなく、自分の中で育て、関連する情報を集めたり、様々な角度から物事を眺めたりしながら、自分なりのテーマとして深く掘り下げていきます。この過程は、時に長く、どこへ向かうか分からない不安を伴うかもしれませんね。
- ビジョンの形成: 探求を続ける中で、ぼんやりとしていた問いが、徐々に「自分はこういう新しい価値観を提示したい」「こんな未来があったら面白い」という、独自のビジョンやコンセプトへと昇華されていきます。
- 表現と創造: 形成されたビジョンを、作品やプロダクト、サービスといった具体的な「形」としてアウトプットします。このアウトプットは、必ずしも万人に受け入れられる必要はありません。むしろ、見る人に新たな問いを投げかけ、対話を生むことが重要だと考えられています。
アート思考のプロセスは、一直線に進むのではなく、行ったり来たりしながら自分だけの答え(あるいは、新たな問い)を見つけ出す、流動的で予測不可能な道のりなのです。
だからこそ、誰も思いつかなかったような、全く新しい価値を生み出す可能性を秘めている、と私は考えています。
ビジネスにおける具体的な活用「事例」
さて、理論的な話が続きましたが、やはり気になるのは「実際にビジネスの世界でどう活かされているの?」という点ですよね。
アート思考とデザイン思考は、それぞれ異なる形でビジネスの現場にインパクトを与えています。
具体的な事例を見ていくと、その違いがよりクリアに感じられるはずです。
デザイン思考の活用事例:既存の体験を「より良く」する
デザイン思考は、顧客満足度の向上やサービスの改善といった場面で、絶大な効果を発揮します。
有名な事例をいくつか見てみましょう。
- Appleの製品開発: Appleはデザイン思考を体現する代表的な企業と言えるでしょう。彼らはただ高機能な製品を作るのではなく、ユーザーが箱を開ける瞬間から、直感的に操作できるインターフェースまで、一貫して「心地よい体験」をデザインしています。これは、徹底的にユーザーの視点に立ち、課題を解決しようとするデザイン思考の賜物ですね。
- Airbnbの初期成長: 創業初期のAirbnbは、思うように予約が伸びずに苦しんでいました。そこで創業者は、ユーザーになりきって自分たちのサービスを使い、課題を探しました。その結果、「掲載されている物件写真の質が低く、魅力が伝わっていない」という問題を発見します。そこで、プロのカメラマンを雇って写真を撮り直したところ、予約数が劇的に増加したそうです。これも、ユーザーに「共感」し、本質的な「問題」を定義して解決した、見事なデザイン思考の実践例です。
このように、デザイン思考は既にある市場や顧客のニーズを深く掘り下げ、サービスや製品を改善し、ビジネスを成長させる上で非常に強力な武器となることがわかります。
アート思考の活用事例:新しい「意味」を創造する
一方でアート思考は、まだ誰も気づいていないような、まったく新しい市場や価値観を創造することに貢献します。
いわゆる「イノベーション」と呼ばれる領域で、その真価が発揮されると言えるかもしれません。
- ソニーのウォークマン: ウォークマンが開発される前、「音楽は家でじっくり聴くもの」というのが常識でした。市場調査をしても「外で音楽を聴きたい」という明確なニーズは存在しなかったと言われています。しかし、創業者の盛田昭夫氏は「いつでもどこでも音楽を楽しみたい」という自身の個人的な思い、つまりアート思考的な発想を起点に開発を進めました。結果として、ウォークマンは「音楽を携帯する」という新しい文化を創造し、世界的な大ヒット商品となったのです。これは、課題解決ではなく「新しい意味の創造」から始まった事例ですね。
- 現代の新規事業開発: 近年では、多くの企業が先の見えない時代を乗り越えるため、アート思考を新規事業開発に取り入れています。例えば、「サステナビリティとは何か?」「これからの豊かさとは?」といった根源的な問いを立て、そこから未来の事業の種を探すアプローチです。これは、短期的な利益を追求するのではなく、企業としての存在意義や新しいビジョンを社会に提示しようとする、アート思考的な試みと言えるでしょう。
アート思考は、既存の常識を疑い、未来のビジョンを描くことで、ビジネスの非連続的な成長や、新しい文化の創造を牽引する可能性を秘めているのです。
どちらもビジネスに不可欠な思考法ですが、その役割や得意な領域が違うということが、これらの事例からも感じ取れるのではないでしょうか。
ロジカル思考との関係性とそれぞれの役割
アート思考とデザイン思考の話をするとき、もう一つ欠かせないのが「ロジカル思考(論理的思考)」の存在です。
ビジネスの基本とも言えるこの思考法と、他の二つはどのような関係にあるのでしょうか。
私はこれらを対立するものとしてではなく、それぞれが異なる役割を持つ、補完関係にあるツールセットだと捉えています。
ロジカル思考の役割:正解を効率的に導き出す
まず、ロジカル思考の得意分野は、物事を構造的に理解し、筋道を立てて考え、明確な根拠に基づいて「唯一の正解」を導き出すことです。
例えば、「売上が落ちている」という問題があった場合、データを分析して原因を特定し、最も効果的な打ち手を合理的に判断する、といった場面で活躍します。
情報を整理し、分析し、結論を出す。この直線的な思考プロセスは、再現性が高く、誰がやっても同じ結論に至りやすいのが特徴です。
既存の枠組みの中で、物事を効率的に、そして正確に進めるための思考法と言えるでしょう。
思考法の得意領域をマッピングしてみる
ここで、三つの思考法の関係性を整理してみましょう。
私はよく、思考のプロセスを「発散」と「収束」という軸で考えます。
「発散」はアイデアを広げる思考、「収束」はアイデアをまとめる思考です。
- アート思考: これは「究極の発散」の思考法だと感じます。常識や前提を疑い、「そもそも何が問題なのか?」という問い自体を生み出します。アイデアの出発点となる、0から1を生み出すエネルギーの源泉ですね。
- デザイン思考: 発散と収束を行き来するのが特徴です。ユーザーの課題に対して、ブレインストーミングで解決策を「発散」させ、プロトタイプとテストを通じて最適なものへと「収束」させていきます。1を10に育てるプロセスと言えるかもしれません。
- ロジカル思考: これは「強力な収束」の思考法です。発散された多くの選択肢の中から、データや論理を駆使して、最も合理的な答えを一つに絞り込んでいきます。10を100にする、つまり事業をスケールさせる段階で特に重要になります。
このように考えると、三者は対立するのではなく、イノベーションのプロセスの中で、それぞれが異なるフェーズで重要な役割を担っていることが分かります。
アート思考で方向性を見出し、デザイン思考で具体的な形を作り、ロジカル思考で計画を磨き上げる。
この三つを自在に使い分けることが、これからの時代に求められるスキルなのかもしれませんね。
意外と知られていない両者の「デメリット」
アート思考もデザイン思考も、まるで万能の思考法のように語られることが多いですが、どんな物事にも光と影があるように、それぞれに苦手なことや注意すべき点、つまり「デメリット」が存在します。
これらの弱点を理解しておくことは、二つの思考法をより効果的に使いこなす上で、とても大切だと私は思います。
デザイン思考の陥りやすい罠
ユーザー中心で課題を解決するデザイン思考は、非常に実用的で素晴らしいアプローチですが、いくつかの注意点があります。
- 漸進的な改善に留まりやすい: デザイン思考は、あくまで「今いるユーザー」の「今の課題」を起点とします。そのため、既存の製品やサービスを少し良くする「改善」は得意ですが、市場のルールを根底から変えるような「革命的なイノベーション」は生まれにくい、という側面があります。ユーザー自身も、自分が本当に欲しいものを知らないことが多いからです。
- プロセスの形骸化: 5つのステップという分かりやすいフレームワークがあるため、それをただ順番通りにこなすことが目的になってしまうことがあります。「ワークショップをやったからOK」「付箋をたくさん貼ったから大丈夫」といったように、思考の本質を見失い、形式的な作業に陥ってしまう危険性があるのですね。
- 「平均的な答え」に落ち着きがち: 多くの人の意見を聞き、最大公約数的な答えを求めようとすると、結果的に誰にとっても当たり障りのない、平凡なアイデアに収束してしまうことがあります。尖った個性や、熱狂的なファンを生むような魅力が失われる可能性も否定できません。
デザイン思考は、あくまでツールであり、それを使う人の課題設定能力や洞察力が最終的なアウトプットの質を左右する、ということを忘れてはいけないのかもしれません。
アート思考が抱えるリスク
一方で、自己表現や問題提起を起点とするアート思考にも、ビジネスで活用する上での難しさやリスクが伴います。
- ビジネスに繋がらない可能性がある: アート思考の出発点は、個人の内なる衝動であり、市場や顧客のニーズではありません。そのため、探求の末に生まれたアイデアが、必ずしも商業的に成功するとは限らないという大きなリスクがあります。マネタイズの方法が全く見えないまま、終わってしまうことも少なくないでしょう。
- 再現性が低く、属人的になりやすい: 「ひらめき」や「直感」といった、個人の感性や経験に大きく依存するため、デザイン思考のように誰もが実践できる体系的なプロセスがありません。組織的に取り入れようとしても、特定個人の才能に頼ってしまい、なかなかスケールしないという難しさがあります。
- 時間とコストがかかる: 答えのない問いを探求するプロセスは、非常に時間がかかります。いつ成果が出るか分からない活動に対して、企業がリソースを投資し続けるのは、なかなかの覚悟がいることですよね。短期的な成果を求められる環境では、実践が難しい側面もあります。
アート思考は、大きな可能性を秘めていると同時に、不確実性が高く、コントロールが難しい諸刃の剣と言えるかもしれません。
これらのデメリットを知った上で、デザイン思考やロジカル思考と組み合わせながら、それぞれの「良いとこ取り」をすること。それが、両者を使いこなすための鍵となりそうです。
アート思考とデザイン思考を実践的に使いこなす方法
- 日常でできるそれぞれの思考法の「鍛え方」
- 2つの思考の「組み合わせ」による相乗効果
- 新規事業で「ビジネス」を成功に導くヒント
- 理解を深めるためのおすすめ「本」3選
- アート思考とデザイン思考で未来を創造する
日常でできるそれぞれの思考法の「鍛え方」
アート思考やデザイン思考と聞くと、何か特別な才能や専門的な訓練が必要だと感じてしまうかもしれません。
でも、私はそうは思いません。
これらの思考法は、日々のちょっとした意識や習慣によって、誰でも鍛えることができる「思考の筋肉」のようなものだと感じています。
ここでは、気軽に始められるトレーニング方法をいくつかご紹介しますね。
アート思考を鍛えるための習慣
アート思考の根幹は、自分だけの「なぜ?」を見つけ、育てることにあります。
そのためのトレーニングは、日常の中にたくさん隠されていますよ。
- 美術館やギャラリーに足を運ぶ: まずは、たくさんのアートに触れることが一番です。作品を見て、「好き」「嫌い」だけで終わらせず、「なぜ自分はそう感じるんだろう?」と自問自答してみてください。作者の意図を想像したり、タイトルから物語を膨らませたりするのも良いトレーニングになります。
- 「当たり前」を疑う: 例えば、「なぜ信号は赤・黄・青なんだろう?」「なぜ仕事は週5日なんだろう?」といった、普段気に留めない常識に対して、あえて「なぜ?」と問いを立ててみましょう。自分なりの答えを探すプロセスが、思考の柔軟性を高めてくれます。
- 目的のない創造活動を始める: 絵を描いたり、粘土をこねたり、詩を書いたり。誰かに見せるためでも、何かの役に立てるためでもなく、ただ自分が作りたいから作る、という時間を持ってみませんか。目的から解放されることで、自分自身の内なる声に耳を傾けやすくなります。
デザイン思考を鍛えるための習慣
デザイン思考は、他者への共感と、課題解決に向けた観察眼を養うことが中心になります。
こちらも、身の回りにトレーニングの機会が溢れています。
- 人間観察をしてみる: カフェや電車の中で、人々が何に困っているか、どんな時に笑顔になるかを観察してみましょう。「あの人はなぜあんな行動を取るんだろう?」と背景を想像することが、共感力を高める第一歩です。
- 身の回りの「不便」をメモする: 日常生活で感じる「もっとこうだったら良いのに」という小さな不便を、スマートフォンや手帳に書き留めてみてください。そして、その不便を解決するためのアイデアを3つ考えてみる。この繰り返しが、課題発見能力とアイデア創出力の両方を鍛えてくれます。
- 「もし自分が〇〇の担当者だったら?」と考える: 例えば、よく使うアプリや、よく行くお店について、「もし自分がここの改善担当者だったら、どうするだろう?」と考えてみましょう。ユーザー視点と提供者視点の両方を持つことで、課題解決の解像度が一気に上がります。
どちらの思考法も、特別な道具は必要ありません。
大切なのは、日常を少し違うレンズで見てみようとする、小さな好奇心なのかもしれませんね。
2つの思考の「組み合わせ」による相乗効果
アート思考とデザイン思考、それぞれの違いや鍛え方を見てきましたが、私が最も面白いと感じるのは、この二つを対立させるのではなく、「組み合わせる」ことで生まれる大きな可能性です。
片方だけではたどり着けない場所へ、二つを組み合わせることで到達できる。そんなイメージを持っています。
具体的には、どのような順番で組み合わせると効果的なのでしょうか。
「アート思考」で問いを立て、「デザイン思考」で形にする
私が考える最も強力な組み合わせは、まずアート思考で「進むべき未来の方向性」を定め、その後にデザイン思考で「そこへ至るための具体的な道筋」を作るという流れです。
このプロセスを、新規事業を立ち上げる場面を例に考えてみましょう。
- 【フェーズ1: アート思考】ビジョンの創造: まずは市場調査や競合分析から始めるのではなく、「これからの社会にとって、本当に価値のあることは何だろう?」「人々が心から豊かだと感じられる暮らしとは?」といった、壮大で哲学的な問いを立てます。ここでの目的は、答えを出すことではなく、チームが心から共感できる独自の「北極星」となるビジョンを見つけ出すことです。
- 【フェーズ2: アート思考 → デザイン思考】コンセプトへの転換: 描いたビジョンをもとに、「その世界観を実現するための中核となるコンセプトは何か?」を考えます。例えば、「モノを所有するのではなく、体験を共有する社会」というビジョンが見えたなら、「移動そのものを楽しみに変えるモビリティサービス」といった具体的なコンセプトに落とし込みます。ここが、抽象的な問いから具体的な課題解決への橋渡しの部分ですね。
- 【フェーズ3: デザイン思考】ソリューションの開発: コンセプトが決まったら、いよいよデザイン思考の出番です。ターゲットとなるユーザーに共感し、彼らが抱えるであろう具体的な課題を定義します。そして、プロトタイピングとテストを繰り返しながら、ユーザーにとって本当に価値のあるサービスやプロダクトへと磨き上げていくのです。
この流れの素晴らしい点は、アート思考が生み出す「Why(なぜ我々はこれをやるのか?)」という強力な軸があるため、デザイン思考のプロセスがブレなくなることです。
目先の課題解決に追われるだけでなく、常に大きなビジョンに立ち返りながら、一貫性のある、そして何より「意味のある」プロダクトやサービスを生み出すことができるようになるのです。
アート思考が「0→1」を生み出し、デザイン思考がその「1」を「10」へと育てる。
この二つの思考法は、まさに車の両輪のような関係だと言えるのではないでしょうか。
新規事業で「ビジネス」を成功に導くヒント
前述の「組み合わせ」の話は、特に不確実性の高い「新規事業」の領域で、成功の確率を格段に高めるヒントになると私は考えています。
多くの新規事業が失敗に終わる原因の一つは、既存の市場や成功事例の分析、つまりロジカル思考だけに頼ってしまい、結果的に他社と似たようなアイデアしか生まれなかったり、ユーザーの本当の心を掴めなかったりすることにあるのではないでしょうか。
ここでアート思考とデザイン思考が、羅針盤と地図の役割を果たしてくれます。
アート思考:競争のないブルーオーシャンを描く
新規事業においてアート思考がもたらす最大の価値は、「競争」という概念から自由になれることです。
他社がどうしているか、ではなく、「自分たちは世界をどうしたいのか」という問いから始めることで、誰も手をつけていない未開拓の領域、いわゆるブルーオーシャンを発見できる可能性が高まります。
例えば、「ただの移動手段」としてではなく、「親子の対話を生む空間」として車を再定義してみる。
すると、これまでの燃費や速度といった競争軸とは全く異なる、新しい価値を持つプロダクトのアイデアが生まれるかもしれません。
この「意味のイノベーション」こそが、アート思考がビジネスにもたらす強力な推進力なのです。
デザイン思考:顧客と共に価値を創り上げる
そして、どんなに素晴らしいビジョンも、独りよがりではビジネスとして成立しません。
そこで活きてくるのがデザイン思考です。
アート思考で描いたビジョンやコンセプトが、本当に人々に受け入れられるのか。そこにどんな課題が潜んでいるのか。
デザイン思考のプロセスを通じて、未来の顧客となる人々と早期に対話し、彼らを巻き込みながら事業を育てていくことができます。
このプロセスは、事業の失敗リスクを最小限に抑えるだけでなく、初期の段階から熱心なファン(コアユーザー)を獲得することにも繋がります。
彼らは、単なる消費者ではなく、共に事業を創り上げていく「共創者」となってくれるかもしれません。
このように、アート思考で「事業の魂」を込め、デザイン思考で「事業の身体」を形作っていく。
この両輪を回すことで、単に儲かるだけでなく、社会にとっても意味のある、そして長く愛される新規事業を生み出すことができる。
私はそう信じています。
理解を深めるためのおすすめ「本」3選
アート思考とデザイン思考について、もっと深く知りたい、学びたいと感じた方もいらっしゃるかもしれませんね。
幸いなことに、近年ではこの分野に関する素晴らしい本がたくさん出版されています。
ここでは、私が特におすすめしたい、それぞれの思考法への理解を深めるのに役立つ(と私が考える)架空の3冊をご紹介します。
本屋さんで似たようなテーマの本を探す際の、参考にしてみてください。
1. 『アート・シンキング入門:『自分』から始めるイノベーション』
この本は、アート思考がアーティストだけのものではないことを、分かりやすい言葉で教えてくれます。
「なぜ、私たちは常識を疑えないのか?」「どうすれば、自分だけの『問い』を見つけられるのか?」といった、アート思考の核心に迫るテーマを、豊富な事例と共に解説しています。
特に、日常生活の中でアート思考を実践するための具体的なワークが紹介されている点が魅力で、読んだその日からすぐに試してみたくなりますよ。
理論だけでなく、実践への第一歩を踏み出したい方に、まず手に取ってみてほしい一冊です。
2. 『実践デザイン思考:顧客の心をつかむ5つのステップ』
デザイン思考の全体像と、その具体的なプロセスを体系的に学びたいなら、この本がおすすめです。
「共感」「問題定義」「創造」「試作」「テスト」という5つのステップを、架空のプロジェクトストーリーに沿って体験できるように構成されており、非常に実践的です。
各ステップで陥りがちな失敗や、それを乗り越えるためのコツなども丁寧に解説されているため、初心者だけでなく、一度デザイン思考を試して挫折した経験がある方にも、新たな発見があるかもしれません。
チームでイノベーションに取り組む際の、共通言語となってくれるような一冊ですね。
3. 『越境する思考法:アートとデザインが交わる時』
この本は、アート思考とデザイン思考を別々のものとしてではなく、二つを組み合わせ、行き来することの重要性を説いています。
0から1を生み出すアート思考の力と、1を10に育てるデザイン思考の力を、いかにして相乗効果へと繋げるか。
そのための具体的なマインドセットや組織のあり方について、示唆に富んだ考察が展開されています。
これからの時代のイノベーションは、専門領域に閉じこもるのではなく、領域を「越境」することから生まれる、というメッセージには、私も深く共感しました。
二つの思考法の関係性をより深く理解し、次のステージに進みたいと考えている方に、ぜひ読んでいただきたい挑戦的な一冊です。
アート思考とデザイン思考で未来を創造する
ここまで、アート思考とデザイン思考の違いから、その組み合わせ、そして実践方法まで、私なりの視点で探求してきました。
皆さんと一緒にこの旅をしてみて、改めて感じることがあります。
それは、この二つの思考法が、単なるビジネスのフレームワークや問題解決のテクニックに留まらない、もっと大きな可能性を秘めているということです。
デザイン思考は、他者の痛みや喜びに深く共感し、寄り添うことを教えてくれます。
それは、他者への想像力と思いやりの心を育むことに他なりません。
世の中の様々な問題を「自分ごと」として捉え、より良い社会のために自分に何ができるかを考える、その第一歩を与えてくれるように感じます。
一方で、アート思考は、自分自身の内なる声に耳を澄まし、常識という見えない檻から心を解き放つことを教えてくれます。
それは、自分だけの価値基準を持ち、自分らしく生きる勇気を与えてくれるものです。
誰かが決めた「正解」を追い求めるのではなく、自ら「問い」を立て、自分だけの答えを創造していく。そのプロセスは、私たちの人生そのものを豊かにしてくれるのではないでしょうか。
変化が激しく、未来を予測することが困難なこの時代において、私たち一人ひとりに求められているのは、もしかしたらこの二つの力なのかもしれません。
他者への共感を持って課題を解決する力と、自分だけのビジョンを描き、新しい価値を創造する力。
アート思考とデザイン思考は、その両方を鍛えるための、素晴らしい道しるべとなってくれるはずです。
この記事が、皆さんの日常に、そして未来に、新しい視点や彩りをもたらす、小さなきっかけとなったなら、これ以上に嬉しいことはありません。
- アート思考とデザイン思考は目的が根本的に異なる
- デザイン思考は「他者」の課題解決を目的とする
- アート思考は「自己」の探求や問題提起を目的とする
- 思考の起点がデザイン思考は「外」、アート思考は「内」にある
- デザイン思考のプロセスは体系化された5ステップが基本
- アート思考のプロセスは流動的で決まった型がない
- ビジネス事例としてAppleはデザイン思考の代表例
- ウォークマンはアート思考から生まれたイノベーションの例
- ロジカル思考は効率的に正解を導く「収束」の思考法
- 三つの思考法は対立せず補完しあう関係にある
- デザイン思考のデメリットは革命が起きにくいこと
- アート思考のデメリットはビジネスに繋がりにくいこと
- 思考法は日常の意識で鍛えられる「筋肉」のようなもの
- アート思考でビジョンを描きデザイン思考で形にするのが理想
- 二つの組み合わせで「意味のある」新規事業が生まれる