
結論:キュビズム(Cubism)とは、20世紀初頭にパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックが始めた美術運動です。最大の特徴は、一つの対象を複数の視点から同時に描くことと、幾何学的な形に分解して再構成すること。初期の「分析的キュビズム」と、コラージュが生まれた「総合的キュビズム」の二段階があります。
「キュビズムとは?」「特徴は?」「ピカソと何の関係?」——よくある疑問に、この記事で順に答えます。
- 複数の視点:正面・横・上など、いろいろな角度を1枚にまとめる
- 幾何学的な形:人物や静物を三角形・四角形などに分解して再構成
- セザンヌの影響:「円筒・球・円錐で捉える」思想が源流
- 出発点:ピカソ『アヴィニョンの娘たち』(1907年)
- 分析的:形を分解・色彩は抑えめ(1908〜1912年頃)
- 総合的:コラージュ・色彩の復活(1912〜1914年頃)
- キュビズムとは何か(意味・語源)
- キュビズムの3つの特徴
- セザンヌとの関係
- 『アヴィニョンの娘たち』の意味
- 分析的キュビズムと総合的キュビズムの違い
- ピカソとブラックの役割
- 未来派・抽象画など後世への影響
- 初心者向けの鑑賞のコツ
- キュビズムとは? — 対象を複数の視点と幾何学的な形で描く20世紀初頭の美術運動。単なる「角張った絵」ではなく、見え方と思考の表現の革新です。
- キュビズムの特徴は? — ①複数の視点 ②幾何学的分解 ③一点透視への疑問。代表的作家はピカソとブラックです。
- 分析的と総合的の違いは? — 分析的は形の分解・色は茶系で抑えめ。総合的はコラージュや貼り紙で要素を「合成」し、色も戻ります。
- ピカソだけが始めた? — ピカソとブラックが共同で発展させました。セザンヌの遺作展(1907年)が大きなきっかけです。
※記事内の作品画像はイメージ・説明用です。
キュビズムとは
- 英語 cubism(立方体 cube にちなむといわれる)
- 写実の「一つの視点」への挑戦
意味と始まり
キュビズムは、ルネサンス以来の一点透視図法(一か所から見た光景を再現する画法)に疑問を向けた運動です。
「目で一瞬見えた姿」だけでなく、「頭の中で知っている形」——正面も横も、いろいろな情報を1枚の絵に重ねようとしました。その結果、人物や静物が角張った面(ファセット)のように分解されて見えます。
抽象画の流れにもつながる重要な転換点です。カンディンスキーなど、抽象画とカンディンスキーの記事で触れているように、20世紀美術はここから大きく枝分かれしていきます。
キュビズムの特徴3つ
- 複数の視点
- 幾何学的な形
- 絵画の「錯覚」をやめる
① 複数の視点を1枚に

キュビズムでいちばん印象に残るのが、いろいろな角度から見た形を同時に描くことです。顔が正面なのに鼻は横から、ギターの各部分がばらばらに配置されている——そんな画面に違和感を覚える方も多いでしょう。
画家たちは「一か所から見た瞬間だけが真実か?」と問い、知っている形を重ねる方向へ進みました。パズルの正解を探すより、画面の中を探検する感覚で見ると楽しみやすくなります。
② 幾何学的な形に分解する

人物や静物を、三角形・四角形・円に近い形へ分解し、画面の上で再配置します。陰影で立体感をだますのではなく、キャンバスは平面のままと割り切ったのがキュビズムの大きな転換です。
建築のような構築感が出るのは、形を「組み立てる」発想だからです。
③ 従来の絵画のルールからの解放
遠近法やモデリング(陰影のグラデーション)に頼らず、絵そのものの構造を見せようとしました。「何を描いたか」だけでなく「どう構成したか」が作品の主役になる方向へ進んでいきます。
セザンヌの影響
- 「近代絵画の父」ポール・セザンヌ
- 1907年の遺作展がきっかけ
キュビズムは突然ゼロから生まれたわけではありません。ポール・セザンヌ(1839–1906)の探求が源流です。
- 幾何学:「自然を円筒・球・円錐で処理せよ」——形を基本形に還元する考え方
- 複数の視点:静物画でテーブルの縁がずれるなど、視点を動かしながら描いた試み
- 構築的な筆触:短い筆致で画面を組み立てるパス塗り
1907年のセザンヌ遺作展は、ピカソやブラックに強い衝撃を与えました。ピカソは「セザンヌは我々すべての父だった」と語ったと伝えられます。セザンヌと印象派の関係、ポスト印象派全体の位置づけはポスト印象派とはの記事もあわせてどうぞ。
『アヴィニョンの娘たち』とピカソ
- 1907年・キュビズムの出発点
- まだ完全なキュビズムではないが決定的
代表作で押さえるポイント

ピカソの『アヴィニョンの娘たち』(1907年)は、キュビズムの出発点として語られることが多い作品です。5人の裸婦が、角張った形と仮面のような顔で描かれ、伝統的な「美」の基準への挑戦となりました。
- 複数の視点:背中を向けながら顔だけこちらを向けるなど、解剖学的にありえない組み合わせ
- 幾何学的形態:体が鋭い面の集合のように見える
- 彫刻の影響:アフリカ・イベリア彫刻から受けた力強い表現
ブラックも当初は衝撃を受けたといわれますが、この作品が二人の共同探求のきっかけになりました。
ピカソ本人について詳しく知りたい方は、ピカソの本名の記事も参考にしてください。
分析的キュビズムと総合的キュビズムの違い
- 分析的=分解・分析
- 総合的=合成・コラージュ
| 比較 | 分析的キュビズム | 総合的キュビズム |
|---|---|---|
| 時期 | おおよそ1908〜1912年 | おおよそ1912〜1914年 |
| アプローチ | 形を細かく分解 | 要素を組み合わせて合成 |
| 色彩 | 茶・灰・黄土など抑えめ | 色や模様が戻る |
| 技法 | 油彩・木炭が中心 | パピエ・コレ・コラージュ |
| 鑑賞 | 形の分析に意識が向く | 素材の対比も楽しめる |
分析的キュビズム(Analytical Cubism)
1908年頃から、ピカソとブラックは本格的に共同作業を始めます。この時期は分析的キュビズムと呼ばれ、モチーフを無数の面に分解し、茶色や灰色が支配的な画面が多いです。
色を抑えるのは、形態の分析から注意をそらさないため、と考えられています。判読が難しくても、画家が対象をどう理解し、画面に再構築したか——その思考の跡を追う鑑賞になります。
総合的キュビズム(Synthetic Cubism)
1912年頃からは総合的キュビズムへ。ブラックのパピエ・コレ(貼り紙)、ピカソのコラージュ(籐椅子のある静物など)が、絵画と現実の境界を問い直しました。
新聞紙や壁紙など本物の素材が画面に入ることで、描かれた部分が「記号」として際立つ。色も形も、以前より明快になった作品が増えます。
ピカソとジョルジュ・ブラック
- 二人で「登山」のように共同研究
- 第一次世界大戦で協働は終わる

キュビズムはピカソ(1881–1973)とジョルジュ・ブラック(1882–1963)の共同探求として発展しました。ブラックは二人を「ザイルで結ばれた登山仲間」に例えたといわれます。
分析的キュビズムの時代は、作品の見分けが専門家でも難しいほど近づいた時期もあります。ピカソは情熱的・破壊的、ブラックは理知的・秩序を重んじる——対照的な性格が、お互いを補い合った面もあります。
1914年、ブラックが第一次世界大戦に徴兵されて協働は終わりますが、この数年で20世紀美術の土台が変わりました。
キュビズムが与えた影響
- 未来派・ロシア・アヴァンギャルド
- ダダ・シュルレアリスムへのコラージュ
- 建築・デザインへ

キュビズムの影響は絵画だけにとどまりません。
- 未来派:形の分解に「時間」と「運動」を加える(例:バッラ『鎖につながれた犬のダイナミズム』)
- ロシア・アヴァンギャルド:マレーヴィチ、タトリンなど、抽象・構成へ発展
- オルフィスム:色彩理論と組み合わせた抽象
- ダダ・シュルレアリスム:コラージュが重要な表現に。運動の入門はシュルレアリスムとは、代表的画家はサルバドール・ダリとはもあわせてどうぞ
彫刻(アーキペンコ、リプシッツ)、建築(ル・コルビュジエのピュリスム)、グラフィックデザインにも波及しました。
「具象と抽象の違い」として整理したい方は、抽象画と具象画の違いもあわせてどうぞ。現代アートが難しく感じる場合は、現代アートはわからないままで大丈夫の記事も参考になります。
キュビズムの楽しみ方(初心者向け)
鑑賞で押さえるとよいのは次の3点です。
- 正解探しをやめる:「何が描かれているか」より、構成とリズムに目を向ける
- 視点を想像する:「正面から見たら?横から?」と自分の頭の中で回してみる
- 素材に注目する:総合的キュビズムでは、新聞紙や壁紙の質感も作品の一部
「この形が面白い」「色が落ち着く」——率直な感想で十分です。有名な抽象画をもっと知りたい方は、有名な抽象画の記事もどうぞ。
- キュビズムは複数の視点と幾何学的分解が核心
- 源流はセザンヌ、出発点は『アヴィニョンの娘たち』
- 分析的は分解・色抑えめ、総合的はコラージュ・色彩の復活
- ピカソとブラックが共同で発展させた
- 未来派・抽象・シュルレアリスムなど後世への影響が大きい
- 正解より、画面の構成と自分の感想で楽しんでよい





