キュビズムの特徴をわかりやすく解説!アートの常識を変えた革命とは?

こんにちは、アザミです。

ピカソの絵画を見て、「どうしてこんな形なんだろう?」とか「何が描かれているんだろう?」と不思議に思ったことはありませんか。

角張っていて、まるでバラバラにしたものを再構築したかのような不思議な絵画、それがキュビズムです。

私が初めてキュビズムの作品に触れたとき、正直なところ、すぐに理解できたわけではありませんでした。

しかし、キュビズムの特徴とは何かを知るうちに、その奥深さと革新性にすっかり魅了されてしまったんです。

この記事では、20世紀初頭にアートの世界に大きな革命をもたらしたキュビズムについて、その特徴や魅力を一緒に探求していきたいと思います。

キュビズムをわかりやすく理解するためには、いくつかのポイントがあります。

例えば、なぜ一つの画面に複数の視点を取り入れたのか、そして対象を幾何学的な形で捉えようとしたのはなぜか、といった疑問です。

この芸術運動の中心には、パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックという二人の代表的な画家がいました。

彼らは、「近代絵画の父」と呼ばれるポール・セザンヌから大きな影響を受け、それまでの絵画の常識を覆す新しい表現方法を生み出したのです。

この記事を読み終える頃には、キュビズムの代表作を見たときに「なるほど、こういうことだったのか!」と感じられるようになり、後世への影響の大きさにもきっと驚くことでしょう。

難しく考えずに、一緒にアートの新しい扉を開けてみませんか。

※こちらの記事の画像はイメージ画像です。

この記事で分かる事、ポイント
  • キュビズムの最も重要な特徴である「複数の視点」の謎
  • なぜモチーフが「幾何学的な形」に分解されるのか
  • キュビズム誕生のきっかけとなったセザンヌからの影響
  • ピカソの代表作『アヴィニョンの娘たち』の革新性
  • 初期の「分析的キュビズム」と発展期の「総合的キュビズム」の違い
  • 中心人物であるピカソとブラックの深い関係性
  • キュビズムが後世のさまざまなアートに与えた大きな影響

 

アートの常識を変えたキュビズムの特徴とは?

この章のポイント
  • キュビズムって面白いですよね
  • なぜ?いろんな角度から描く複数の視点
  • モチーフをシンプルにする幾何学的な形
  • 「近代絵画の父」セザンヌからの影響
  • 代表作『アヴィニョンの娘たち』を見てみよう
  • 色彩が控えめな「分析的キュビズム」の時代

キュビズムって面白いですよね

アートに興味を持ち始めたばかりの頃、私が特に心を惹かれたのが「キュビズム」でした。

キュビズムの絵を初めて見たとき、皆さんはどう感じましたか。

「何だかよくわからないけど、強烈なインパクトがある」と感じた方も多いのではないでしょうか。

私自身、最初は戸惑いと好奇心が入り混じったような、不思議な感覚を覚えたんですよね。

人物の顔が正面を向いているのに、鼻は横顔だったり、ギターがバラバラに分解されて、いろいろな角度から見た形が一つの画面に収まっていたり。

まるで、時空が歪んだ世界に迷い込んだような気分にさせられます。

このブログは、かつての私のようにアートの世界に足を踏み入れたばかりの方や、もっとアートを楽しみたいと思っている方に向けて、私の学びや感動を共有するデジタルノートのような場所です。

正規の美術教育を受けていない私だからこそ、専門用語に縛られず、素朴な「なぜ?」を大切にしながら、皆さんと一緒にアートの魅力を探っていけたらと思っています。

今回は、そんな不思議で魅力的なキュビズムの世界を一緒に冒険していきましょう。

キュビズムがどのようにして生まれ、どんな特徴を持ち、アートの歴史にどのような革命をもたらしたのか。

その核心に迫ることで、今まで「難しい」と感じていたアートが、もっと身近で面白いものに変わるかもしれません。

ピカソやブラックといった天才たちが何を目指していたのかを知ると、彼らの作品がまるで違って見えてくるから不思議です。

さあ、一緒にキュビズムの扉を開けて、その奥深い世界を覗いてみましょう。

なぜ?いろんな角度から描く複数の視点

キュビズムと聞いて、多くの人が真っ先に思い浮かべるのは、あの独特な描き方ではないでしょうか。

そう、一つの対象をさまざまな角度から見た姿を、一枚の絵の中に同時に描き出す「複数の視点」という手法です。

これは、キュビズムの最も根本的で革命的な特徴だと言えるかもしれませんね。

でも、どうしてピカソやブラックは、このような奇妙な描き方を始めたのでしょうか。

ルネサンス以来の伝統への挑戦

これを理解するためには、少しだけ絵画の歴史を遡る必要があります。

ルネサンス時代から20世紀初頭まで、西洋絵画の主流は「一点透視図法」でした。

これは、画家が特定の一つの地点から見たままの光景を、科学的な法則に基づいてキャンバス上に再現しようとする技法です。

遠くのものは小さく、近くのものは大きく描くことで、二次元の平面に三次元的な奥行きや空間を表現するわけですね。

私たちが普段「上手な絵」と聞いてイメージする、写実的な絵画の多くがこの技法に基づいています。

しかし、キュビストたちは、この伝統的な考え方に疑問を抱きました。

「本当に、ある一瞬、ある一つの視点から見た姿だけが、その対象の真実の姿なのだろうか?」と。

例えば、あなたの目の前にリンゴがあると想像してみてください。

正面から見れば丸い形をしていますが、少し視点をずらせばヘタが見え、裏側には違う色の部分があるかもしれません。

私たちの頭の中では、そのリンゴを手に取って回したり、かじったりした記憶、つまり、さまざまな角度から見た情報が統合されて「リンゴ」という概念が成り立っています。

キュビストたちがやろうとしたのは、この頭の中で行われている「知的な認識」を、絵画で表現することだったのです。

見えるものより「知っていること」を描く

つまり、彼らは目に見える一瞬の光景(視覚情報)を描くのではなく、その対象について知っている全ての情報(概念情報)を画面に描き込もうと試みました。

正面から見た顔、横から見た鼻、上から見た頭頂部…。

それら全てを一度に提示することで、対象が持つ時間や空間を超えた「本質的な姿」を捉えようとしたのです。

これは、絵画を単なる「窓の外の景色」の再現から、「思考のプロセス」を表現する媒体へと変える、非常に大きなパラダイムシフトでした。

初めてキュビズムの絵を見たとき、私たちは違和感を覚えるかもしれません。

しかし、それは私たちが「絵画は現実を写すもの」という固定観念を持っているからなんですよね。

キュビストたちの視点に立って、「これは見える世界ではなく、知っている世界を描いたものなんだ」と考えてみると、バラバラに見えたパーツが繋がり、画家の意図が少しずつ見えてくるような気がしませんか。

この「複数の視点」は、単なる奇抜なスタイルではなく、対象の本質に迫ろうとする真摯な探求心から生まれた、知的なアプローチだったと言えるでしょう。

モチーフをシンプルにする幾何学的な形

キュビズムのもう一つの重要な特徴は、描かれる対象、つまりモチーフを、まるで水晶やサイコロのような「幾何学的な形」に分解し、再構成することです。

人物の体が角張ったブロックのように見えたり、風景が三角形や四角形の集合体として描かれたりします。

この手法もまた、キュビズムを理解する上で欠かせない要素です。

では、なぜ彼らは、柔らかな曲線を持つ自然のものを、あえて硬質な幾何学的形態に置き換えたのでしょうか。

伝統的な表現方法からの脱却

その理由の一つは、前述の「複数の視点」を効果的に表現するためでした。

さまざまな角度から見た形を一つの画面に統合しようとすると、必然的に輪郭線が交差し、形が断片化していきます。

この断片化された面(ファセット)を捉えやすくするために、幾何学的な形は非常に有効だったのです。

そしてもう一つの、より本質的な理由は、伝統的な絵画の約束事からの完全な解放を目指したことにあります。

従来の絵画では、「モデリング」と呼ばれる陰影のグラデーションによって、立体感や質感を表現していました。

光が当たる部分は明るく、影になる部分は暗く描くことで、モチーフに丸みや重みを与えていたわけです。

しかし、キュビストたちは、このような視覚的なイリュージョン(錯覚)を否定しました。

彼らにとって絵画は、あくまで絵具とキャンバスという物質でできた二次元の平面です。

その平面の上に、無理に三次元の奥行きがあるかのように見せかけるのは、偽りであると考えたのです。

セザンヌの思想の発展

この考え方の源流には、やはりポール・セザンヌの存在があります。

セザンヌは「自然を円筒、球、円錐によって処理しなさい」という有名な言葉を残しました。

これは、自然の多様な形を、その背後にある基本的な幾何学形態に還元して捉え直そうとする試みでした。

ピカソとブラックは、このセザンヌの思想をさらに推し進めます。

彼らはモチーフを基本的な幾何学的形態に分解するだけでなく、そのパーツを画面上で自由に再構成しました。

これにより、伝統的な遠近法や陰影法といった、”本物らしく見せるため”のルールから完全に自由になったのです。

画面はもはや、現実空間のイリュージョンではなく、それ自体が自律した構造を持つ「モノ」となりました。

この幾何学的なアプローチによって、絵画は「何が描かれているか」ということ以上に、「どのように描かれているか」という、絵画自体の構造や成り立ちを問う、より抽象的な芸術へと向かっていくことになります。

キュビズムの絵が、どこか構築的で、建築物のような印象を与えるのは、このような理由からなんですね。

彼らは現実を模倣するのではなく、キャンバスの上に新しい現実を「構築」していた、と言えるのかもしれません。

「近代絵画の父」セザンヌからの影響

どんな革新的な芸術運動も、全くのゼロから突然生まれるわけではありません。

そこには必ず、先人たちの試行錯誤の積み重ねと、その遺産を受け継ぎ、発展させようとする次世代の情熱があります。

キュビズムにとって、その最も重要な源流となったのが、「近代絵画の父」と称されるポール・セザンヌ(1839-1906)です。

ピカソやブラックがキュビズムを生み出す上で、セザンヌの存在がいかに決定的であったかを見ていきましょう。

印象派を超えて

セザンヌは、モネやルノワールと同じ印象派の画家としてキャリアをスタートさせました。

印象派は、移ろいゆく光の効果や、その場の空気感を捉えようとしましたが、セザンヌは次第にそれだけでは満足できなくなります。

彼が目指したのは、一瞬の光の印象の奥にある、もっと堅固で、不変の「構造」を捉えることでした。

彼は「印象派を、美術館の芸術のように堅固で持続的なものにしたい」と語っていたそうです。

この探求の中で、セザンヌは独自の画期的な表現方法にたどり着きました。

セザンヌの革命的な技法

セザンヌの絵画には、後のキュビズムに直接つながるいくつかの重要な特徴が見られます。

  1. 幾何学的な形態の探求: 先ほども触れましたが、「自然を円筒、球、円錐で捉える」という思想は、対象を基本的な形に還元するキュビズムの考え方に直結します。彼の描くサント=ヴィクトワール山や静物画では、全てのものが量感のある塊として捉えられています。
  2. 複数の視点の導入: セザンヌの静物画をよく見ると、テーブルの縁が左右でずれていたり、果物鉢が奇妙に傾いていたりすることに気づきます。これは、彼が対象を少しずつ視点を変えながら観察し、それらを一つの画面に統合しようとした試みの現れです。これはまさに、キュビズムの「複数の視点」の先駆けと言えるでしょう。
  3. パス塗り(構築的筆触): 彼は、平行に並べたような短い筆のタッチ(パス)で画面を構築しました。この方法は、個々の色彩や形を、全体の構造の中に組み込んでいくような効果を生み、画面に秩序と構築性を与えました。これもまた、キュビズムの断片化された画面構成に影響を与えたと考えられます。

1907年、パリでセザンヌの大規模な遺作展が開催されました。

この展覧会は、ピカソやブラックをはじめとする若い画家たちに衝撃的な影響を与えます。

彼らは、セザンヌが切り開いた新たな絵画の可能性に深く感銘を受け、その探求をさらに先に進めようと決意したのです。

ピカソは後に「セザンヌは我々すべての父だった」と語っています。

この言葉からも、セザンヌがいなければキュビズムは生まれなかったであろうことが、ひしひしと伝わってきますね。

セザンヌが撒いた種が、ピカソとブラックという才能あふれる土壌を得て、キュビズムという大きな花を咲かせた、と言えるのかもしれません。

代表作『アヴィニョンの娘たち』を見てみよう

キュビズムという革命の狼煙(のろし)を上げた記念碑的な作品、それが1907年にパブロ・ピカソによって描かれた『アヴィニョンの娘たち』です。

▶︎Google検索:ピカソ アヴィニョンの娘たち

この作品は、美術史における一つの転換点であり、キュビズムの誕生を告げる重要な一枚として知られています。

初めてこの絵を見た人は、その不気味さや激しさに圧倒されるかもしれません。

私も最初は、美しいとは言い難いその表現に少し戸惑いました。

しかし、この作品に込められた革新性を知ると、その見え方が大きく変わってくるんですよね。

伝統的な美からの決別

『アヴィニョンの娘たち』には、5人の裸婦が描かれています。

しかし、彼女たちはルネサンス以来の伝統的な絵画に描かれてきたような、優雅で理想化されたヴィーナスではありません。

体は角張り、幾何学的な形で無造作に構成されています。

顔は、まるで仮面をつけたかのように様式化され、鑑賞者である私たちを鋭い視線で睨みつけているようです。

画面には奥行きがなく、人物と背景が一体化して、浅い空間の中でひしめき合っているように見えます。

これら全てが、それまでの西洋美術が培ってきた「美」の基準に対する、ピカソの明確な挑戦状でした。

キュビズムの萌芽

この作品の中には、キュビズムの核心となる要素がすでに現れています。

  • 複数の視点: 例えば、画面中央左で座っている人物を見てください。彼女は背中を向けていますが、顔はこちらを振り返っています。解剖学的にはありえないポーズですが、これは背中と顔という異なる視点を同時に描こうとした試みです。
  • 幾何学的形態: 人物の体は、三角形や菱形といった鋭い形の組み合わせで描かれ、立体感よりも平面的な構成が強調されています。
  • アフリカ彫刻からの影響: 画面右側の二人の人物の顔は、当時ピカソが強い関心を寄せていたアフリカ(特にイベリア半島)の彫刻から直接的な影響を受けています。その呪術的で力強い表現は、西洋の洗練された美とは全く異なるエネルギーを作品に与えました。

興味深いことに、この作品が最初にアトリエで公開されたとき、友人であったブラックでさえも衝撃を受け、「ガソリンを飲んで火を噴くような絵だ」と評したと言われています。

あまりにも過激で、当時の誰にも理解されなかったのです。

しかし、この作品が投げかけた問いかけ、つまり「絵画とは何か?」という根源的な問いこそが、ブラックを刺激し、二人が共同でキュビズムを探求していくきっかけとなりました。

『アヴィニョンの娘たち』は、まだ完全なキュビズムの様式には至っていませんが、古い価値観を破壊し、新しい芸術の時代を切り開くための、力強い第一歩だったのです。

この一枚の絵から、20世紀の美術が始まったと言っても過言ではないかもしれませんね。

色彩が控えめな「分析的キュビズム」の時代

『アヴィニョンの娘たち』で示された革命的なビジョンを元に、ピカソとブラックは、1908年頃から本格的な共同作業を開始します。

ここから1912年頃までのキュビズムの初期段階は、特に「分析的キュビズム(Analytical Cubism)」と呼ばれています。

この時期の作品を見ると、ある共通した特徴に気づくはずです。

それは、色彩が極端に抑えられていること。

画面は主に、茶色、灰色、黄土色といった、くすんだ色調で支配されています。

なぜ彼らは、絵画の大きな魅力の一つであるはずの「色」を、自ら封印してしまったのでしょうか。

形態の分析への集中

その答えは、「分析的」という言葉に隠されています。

この時期、ピカソとブラックの最大の関心事は、対象の「形態(フォルム)」を徹底的に分析し、画面上で再構成することでした。

彼らは、人物、静物、風景といったモチーフを、無数の小さな幾何学的な面(ファセット)に分解していきます。

そして、それらの断片を、複数の視点から得られた情報と組み合わせながら、キャンバスの上に再構築していったのです。

このプロセスは、非常に知的で、論理的な作業でした。

彼らにとって、鮮やかな色彩は、この厳密な形態分析の邪魔になる「余計なもの」だったのかもしれません。

色が感情や雰囲気を呼び起こしてしまうと、鑑賞者の注意が純粋な形の探求から逸れてしまうと考えたのです。

色彩を限定することで、彼らは鑑賞者の意識を、画面がどのように構築されているか、その構造そのものに向けさせようとしました。

画面の解体と再構築

分析的キュビズムの作品では、モチーフはほとんど判読不可能なほどに解体されています。

人物の顔やヴァイオリンといった具体的な対象は、背景と一体化し、画面全体が細かな面の集合体となってキラキラと輝いているように見えます。

まるで、砕け散った結晶を見ているかのようです。

ピカソの『ダニエル=ヘンリー・カーンヴァイラーの肖像』(1910年)や、ブラックの『ヴァイオリンとパレット』(1909年)などが、この時期の代表作として挙げられます。

これらの作品をじっと見ていると、かろうじて人物の姿や楽器の輪郭を読み取ることができますが、それはもはや現実の再現ではありません。

画家が対象を分析し、その構造を理解し、そして絵画という新しい現実として再構築した、思考の軌跡そのものなのです。

このストイックなまでに形態と構造にこだわった探求があったからこそ、キュビズムは絵画を単なる模倣から解放し、自律した芸術へと高めることができたんですね。

このモノクロームに近い世界観は、キュビズムの一つの大きな特徴であり、彼らの探求がいかに真摯なものであったかを物語っているように感じます。

 

ピカソとブラックが生んだキュビズムの特徴と広がり

この章のポイント
  • 二人の天才、ピカソとブラックという代表的な画家
  • 色彩が戻ってきた「総合的キュビズム」
  • 未来派など後世の芸術への影響も大きい
  • キュビズムの見方をわかりやすく解説
  • まとめ:キュビズムの特徴を知るとアートがもっと楽しくなる

二人の天才、ピカソとブラックという代表的な画家

キュビズムという芸術運動を語る上で、パブロ・ピカソ(1881-1973)とジョルジュ・ブラック(1882-1963)という二人の画家の存在は絶対に切り離せません。

彼らは単なる協力者ではなく、まるで一人の人間であるかのように緊密に連携し、この革命的な芸術を探求しました。

その関係性は、美術史上でも類を見ないほどユニークなものだったと言われています。

ザイルで結ばれた登山仲間

ブラックは、ピカソとの共同作業の時期を振り返り、「私たちはザイルで結ばれた二人の登山仲間のようだった」と語っています。

この言葉は、彼らの関係性を実に見事に表現していますね。

険しい未踏峰に挑む登山家のように、彼らは互いを支え、励まし合いながら、「絵画」という山の頂を目指していました。

1908年から第一次世界大戦が始まる1914年までの間、彼らはパリのモンマルトルで頻繁に互いのアトリエを訪れ、制作中の作品を見せ合い、批評し合いました。

その探求は非常に集中したもので、他の画家との交流をほとんど絶っていたほどです。

分析的キュビズムの時代の作品を見ると、どちらがピカソの作品で、どちらがブラックの作品か、専門家でも見分けるのが難しいことがあります。

彼らはあえて作品にサインをしないことさえありました。

これは、個人の独創性や名声よりも、「キュビズム」という共通の目標を探求すること自体を優先していたことの表れでしょう。

まさに個人の創造性を超えた、純粋な実験の時代だったのです。

異なる個性、同じ目標

もちろん、二人は全く同じタイプの芸術家ではありませんでした。

ピカソは情熱的で、直感的、そして破壊的なエネルギーに満ちた天才でした。

彼の作品は、しばしば感情の爆発を伴い、見る者を激しく揺さぶります。

一方のブラックは、より理知的で、熟慮深く、秩序を重んじる職人肌の画家でした。

彼の作品は、静謐で、抑制の効いた調和を感じさせます。

性格も作風も対照的な二人でしたが、だからこそ、互いにないものを補い合い、高め合うことができたのかもしれません。

ピカソが大胆なアイデアを提示し、ブラックがそれを論理的に洗練させていく。そんな役割分担があったとも言われています。

この奇跡的なパートナーシップは、1914年、ブラックが第一次世界大戦に徴兵されたことで終わりを告げます。

戦争が終わった後、彼らが再び以前のような共同作業に戻ることはありませんでした。

しかし、この短い数年間に彼らが成し遂げた革命は、その後の美術の歴史を永遠に変えてしまったのです。

キュビズムは、この二人の天才の出会いなくしては生まれ得なかった、奇跡の産物だったと言えるでしょう。

色彩が戻ってきた「総合的キュビズム」

1912年頃、ピカソとブラックの探求は新たな段階へと移行します。

この時期から1914年頃までのキュビズムは、「総合的キュビズム(Synthetic Cubism)」と呼ばれています。

「分析的キュビズム」が対象をひたすら分解していくアプローチだったのに対し、「総合的キュビズム」は、異なる要素を組み合わせて一つの画面を「統合」していくアプローチへと変化しました。

そして、その最も大きな特徴は、失われていた「色彩」と「現実のモノ」が画面に戻ってきたことです。

パピエ・コレとコラージュの発明

この変化のきっかけとなったのが、「パピエ・コレ」と「コラージュ」という画期的な技法の発明でした。

1912年、ブラックはアヴィニョンの画材店で木目模様の壁紙を見つけ、それを切り抜いて自らの木炭デッサンに貼り付けました。

これが「パピエ・コレ(貼り紙)」の始まりです。

同じ頃、ピカソも油絵の中に本物の籐椅子の一部を印刷した油布(オイルクロス)を貼り付けた作品(『籐椅子のある静物』)を制作します。こちらは「コラージュ(貼り付け)」と呼ばれます。

パピエ・コレが紙類を貼るのに対し、コラージュは布や砂など、より多様な素材を用いるのが一般的です。

これらの技法は、単なる遊び心から生まれたものではありませんでした。

新聞紙の切り抜き、壁紙、タバコの箱といった「現実の断片」を直接画面に持ち込むことで、彼らは絵画と現実の関係を問い直したのです。

絵画の新たな現実

分析的キュビズムでは、絵画は現実のイリュージョン(錯覚)であることを徹底的に否定しました。

しかし、総合的キュビズムでは、新聞紙という「本物」がそこにあることで、逆説的に、描かれた部分が「絵」であることが強調されます。

例えば、新聞紙の切り抜きは「新聞紙そのもの」であり、その横に木炭で描かれた線は「グラスを表す記号」である、というように。

このように、異なるレベルの現実(本物のモノと、それを表す記号)が画面上で共存することで、絵画はより複雑で知的なゲームのような様相を呈してきます。

そして、この変化に伴い、画面は大きく変わりました。

  • 色彩の復活: 壁紙や色紙を貼ることで、鮮やかな色彩が画面に戻ってきました。形も以前より大きく、シンプルで明快になります。
  • 判読しやすさ: 対象の分解はそれほど徹底的ではなくなり、ギターやグラス、人物といったモチーフが比較的わかりやすく描かれるようになりました。
  • 質感の導入: 貼り付けられた素材は、色彩だけでなく、多様なテクスチャー(質感)を画面にもたらしました。

総合的キュビズムは、分析的キュビズムのストイックな探求を経てたどり着いた、より自由で遊び心に満ちた展開でした。

このコラージュという技法は、その後のダダイズムやシュルレアリスムなど、多くの芸術運動に受け継がれ、現代アートにおいても重要な表現方法の一つとなっています。

キュビズムの探求が、いかに豊かで、発展的なものであったかがよくわかりますね。

未来派など後世の芸術への影響も大きい

キュビズムが20世紀の美術に与えた影響は、計り知れないほど大きく、広範囲に及んでいます。

ピカソとブラックが切り開いた新しい表現の地平は、その後のあらゆる前衛芸術運動にとっての出発点となりました。

キュビズムは単なる一つの様式ではなく、アートの歴史そのものを変えてしまうほどの、巨大なインパクトを持っていたのです。

その影響の広がりを、いくつか具体的に見ていきましょう。

絵画における影響

キュビズムの直接的な影響を受けた芸術運動は数多くあります。

  1. 未来派(フューチャリズム): イタリアで起こったこの運動は、キュビズムの断片化された形態を取り入れ、それに「時間」と「運動」の要素を加えました。例えば、ジャコモ・バッラの『鎖につながれた犬のダイナミズム』では、犬の足や尻尾、鎖が連続写真のように描かれ、動きそのものを表現しようとしています。
  2. ロシア・アヴァンギャルド: マレーヴィチの「シュプレマティスム」や、タトリンの「構成主義」など、ロシアの急進的な芸術家たちもキュビズムの幾何学的な構成やコラージュの技法から多くを学び、それを純粋な抽象絵画や立体構成へと発展させました。
  3. オルフィスム: ロベール・ドローネーらは、キュビズムの形態分割に、鮮やかな色彩の理論を結びつけ、「オルフィスム」と呼ばれる色彩豊かな抽象絵画を生み出しました。
  4. ダダイズムとシュルレアリスム: 総合的キュビズムで生まれたコラージュの技法は、既製品や写真などを組み合わせるダダやシュルレアリスムの作家たちにとって重要な表現手段となりました。

これらの運動は、キュビズムから影響を受けつつも、それぞれが独自の方向性を見出し、20世紀の芸術をさらに多様で豊かなものにしていきました。

彫刻・建築・デザインへの広がり

キュビズムの影響は、絵画の世界だけにとどまりませんでした。

複数の視点や幾何学的な形態の構成という考え方は、三次元の芸術である彫刻や建築にも応用されていきます。

彫刻家のアレクサンダー・アーキペンコやジャック・リプシッツは、キュビズムの理論を立体作品に応用し、「キュビスト彫刻」と呼ばれる分野を確立しました。

建築の世界では、近代建築の巨匠ル・コルビュジエが初期の活動においてキュビズムから強い影響を受けていたことが知られています。

彼の提唱した「ピュリスム(純粋主義)」は、キュビズムの幾何学的な秩序を、より明晰で機能的なものへと発展させようとする試みでした。

さらに、ポスターやタイポグラフィといったグラフィックデザインの分野においても、キュビズムの構成的な画面は、新しい表現の可能性を切り開きました。

このように見てくると、キュビズムが単に「角張った絵」というスタイルにとどまらず、ものの見方や考え方そのものを変革する「思想」であったことがよくわかります。

私たちが今日、当たり前のように触れているモダンなデザインや抽象芸術の源流をたどっていくと、その多くがキュビズムという大きな泉に流れ着くのかもしれませんね。

キュビズムの見方をわかりやすく解説

さて、ここまでキュビズムの歴史や特徴について、少し詳しく見てきました。

複数の視点、幾何学的な形、セザンヌの影響、そして分析的・総合的という二つの段階…。

たくさんの情報に、少し頭が混乱してしまったかもしれませんね。

そこでこのセクションでは、アート初心者の方に向けて、もっとシンプルに「キュビズムの作品をどう見れば楽しめるのか」という、私なりの鑑賞のヒントを共有したいと思います。

「正解」を探さないで楽しむ

まず、私が一番伝えたいのは、「何が描かれているんだろう?」と正解探しをする必要はない、ということです。

もちろん、タイトルに『ヴァイオリンと水差し』とあれば、画面の中からヴァイオリンの形を探してみるのも一つの楽しみ方です。

しかし、それが見つからなくても、全く気にする必要はありません。

キュビズムの面白さは、パズルを解くこととは少し違うところにあるように感じます。

大切なのは、画家がどのように対象を捉え、どのように画面を組み立てたのか、そのプロセスに思いを馳せてみることです。

「ここはこの角度から見た形かな?」「この線とこの線が響き合ってて面白いな」といったように、画面の中を探検するような気分で、自由に見てみるのがおすすめです。

鑑賞のポイント

具体的には、こんな点に注目してみると、より深く作品を味わえるかもしれません。

  • リズムと構成: 細かく分割された面や線が、画面の中でどのようなリズムを生み出しているかを感じてみましょう。心地よい音楽を聴くように、画面全体のハーモニーや構成の美しさを味わってみてください。
  • 色と質感: 特に総合的キュビズムの作品では、使われている色や素材の組み合わせに注目してみましょう。新聞紙のザラザラした質感や、壁紙の模様が、作品にどんな効果を与えているでしょうか。
  • 画家の視点を追体験する: 「もし自分がこのリンゴを描くとしたら、どこから見るかな?」と、画家になりきって考えてみるのも面白いです。正面、真上、斜め下…。いろいろな視点を想像することで、画家の意図に近づけるかもしれません。

何よりも大切なのは、理屈で理解しようとする前に、まずあなたの心がどう感じるかを大切にすることです。

「この色合いが好き」「このギザギザした形が力強くて面白い」「なんだか静かな気持ちになる」…。

どんな感想も、あなただけの大切な鑑賞体験です。

アートは一部の専門家だけのものではありません。

キュビズムという、少し変わった視点を手に入れることで、私たちの世界の見え方そのものが、少しだけ豊かになるような気がしませんか。

ぜひ、リラックスして、キュビズムとの対話を楽しんでみてください。

まとめ:キュビズムの特徴を知るとアートがもっと楽しくなる

今回は、20世紀初頭のアートシーンに革命を起こしたキュビズムの特徴について、皆さんと一緒に探求してきました。

一枚の絵に複数の視点を描き込むという斬新なアイデアから、対象を幾何学的な形に分解する手法、そしてその背景にあるセザンヌからの深い影響まで、様々な側面からその魅力に迫ってみましたが、いかがだったでしょうか。

私自身、キュビズムについて学べば学ぶほど、ピカソやブラックといった芸術家たちの、常識を疑い、新しい表現を追い求めた情熱に圧倒されます。

彼らは単に奇をてらったのではなく、対象の「真実の姿」とは何かを、真剣に問い詰めました。

その結果として生まれたのが、あの知的で、構築的で、そして時には難解にも見える芸術だったのですね。

分析的キュビズムのストイックな形態分析から、総合的キュビズムの遊び心あふれるコラージュまで、その展開もまたドラマチックです。

そして、キュビズムが生み出した新しい考え方が、後の未来派や抽象絵画、さらにはデザインや建築の世界にまで、どれほど大きな影響を与えたかを知ると、改めてその偉大さを感じずにはいられません。

この記事を通して、もし皆さんがキュビズムの作品を前にしたとき、「難しい」という気持ちだけでなく、「面白い」「なるほど」といった好奇心を持って向き合うきっかけになれたなら、私にとってこれほど嬉しいことはありません。

キュビズムの特徴を知ることは、アート鑑賞の新しい扉を開けてくれる、魔法の鍵のようなものかもしれません。

これからも、一緒にたくさんのアートの世界を探検していきましょう。

この記事のまとめ
  • キュビズムは20世紀初頭にピカソとブラックが始めた芸術運動
  • 最大の特徴は対象を複数の視点から同時に描くこと
  • 伝統的な一点透視図法を否定し対象の本質を捉えようとした
  • モチーフを円錐や球体など幾何学的な形に分解し再構成した
  • この手法は陰影法など従来の絵画の約束事からの解放を目指した
  • 「近代絵画の父」ポール・セザンヌの思想から大きな影響を受けた
  • セザンヌの遺作展がピカソらに衝撃を与え運動のきっかけとなった
  • 1907年のピカソ作『アヴィニョンの娘たち』がキュビズムの出発点とされる
  • 初期は形態分析に集中した「分析的キュビズム」の時代
  • 分析的キュビズムでは色彩を抑え茶色や灰色が多用された
  • 発展期はコラージュ技法を用いた「総合的キュビズム」に移行
  • 総合的キュビズムでは鮮やかな色彩と現実の素材が画面に戻った
  • 中心人物のピカソとブラックは「ザイルで結ばれた登山仲間」と称されるほど緊密に協力した
  • キュビズムは未来派や構成主義など後世の多くの芸術に絶大な影響を与えた
  • キュビズム鑑賞は正解探しではなく画家の視点を追体験することが楽しむコツ

 

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